2001.6.3・10・30  屋根の上のヴァイオリン弾き

「屋根の上のヴァイオリン弾き」(のヴァイオリン弾き)を観に帝劇へ。
フィドラー(ヴァイオリン弾き)を駒田さんが演じています。
フィドラーは台詞も歌もありません。
ヴァイオリンを弾いて、身体の動きだけですが、その存在感は大きいです。

西田敏行さんが主人公の牛乳屋テヴィエ。
この話は1905年、ロシアのアナテフカ村が舞台です。
幕が上がると、屋根の上にはヴァイオリン弾きの姿。
屋根の上に座ってヴァイオリンを弾いています。
そして西田テヴィエの登場。
アナテフカに住んでいるユダヤ人達は「屋根の上のヴァイオリン弾きみたいなもんだ」、屋根から落ちないようにバランスをとりながら愉快で素朴な調べをかき鳴らそうとしている。
というような台詞で始まるこの舞台は、牛乳屋のテヴィエがユダヤ人の伝統と、新しい時代の流れの中で一人立ちしていく娘達、そしてロシア人との確執の中で生きて行くお話。

5人の娘がテヴィエにはありますが、親の決めた結婚相手を拒否して自分達で結婚を決めた長女、そのうちに世界をひっくり返してやろうと思っている貧乏学生のパーチックと婚約して、捕まってシベリアに送られた彼を追っていく次女、そしてロシア人の青年と駆け落ちしてしまう三女。
初めて「屋根の上のヴァイオリン弾き」を観た時(’96年)に原作の小説を読んだのですが、確かこれ、元々の題名は「牛乳屋テヴィエ」か何かなのですね。
日本語版は「屋根の上のヴァイオリン弾き」なんですが、確か中を読んでもヴァイオリン弾きの「ヴァ」の字も出て来なかったような気が……。
ヴァイオリン弾きの存在は舞台で現れたものと思われます。

フィドラーの定義、がちょっと難しい。
「ユダヤ人の象徴」と考えるにはテヴィエに近いと思うのですね。
おそらく他のユダヤ人の仲間ならば長女や次女の結婚・婚約を許す事はなかったと思いますし。
多少他の人達よりもテヴィエの方が頭が柔らかいというか。娘が可愛いだけと言ったら身も蓋もないですが。
フィドラーの姿が見えるのはテヴィエだけ(テヴィエの夢の中のシーンはともかくとして)、そしてテヴィエのその時の心情を映したような表情をしてる時があるのですね。
酒場で肉屋のラザール(上條恒彦さん)と長女のツァイテル(島田歌穂さん)の結婚を決めた時、店にいたロシア人達も祝ってくれるのですが、最初とまどったような顔で演奏をやめて様子を伺っていたり、テヴィエがロシア人達と踊り出すとまた演奏を始めたり。
テヴィエの影、でしょうか。それともちょっと違うかなあ。
前までの公演ではフィドラーもっと顔面白塗りだったのですが、今年の公演はもうちょっと薄化粧(でも白塗りだけど)で表情見やすかったので嬉しかったのです。
白塗りと言えば、テヴィエの夢の中のシーンでラザールの先妻・フルマセーラが墓場からやってきて、ラザールとツァイテルの結婚は許さないとテヴィエを襲う(という作り話でテヴィエは妻のゴールデを納得させます)のですが、フルマセーラや、死んだゴールデの祖母のツァイテルなども白塗り(フルマセーラは骸骨のようなメイク)で、この舞台、白塗りの顔は厳密に言うと現実の生きた人間でないしるしでもあるようなので、やっぱりフィドラーは「影」でしょうか。

長女や次女の結婚は許しましたが、三女チャヴァの結婚はテヴィエは許す事が出来ませんでした。
信仰も違う「別の種類の人間」であるということで、可愛い娘の言う事は聞いてやりたい
けれど、これを認めたらテヴィエという人間が壊れてしまう……。
反対されたチャヴァは駆け落ちしてロシア人の教会で結婚式をあげてしまいますが、それを知ったテヴィエは「チャヴァは死んだ」と言うのです。
テヴィエの歌をバックに追想の中で3人の娘達がフィドラーの周りで踊っていますが
一人二人と伴侶に手を取られ去って行きます。
チャヴァに必死で戻れと身振りで示すフィドラーにチャヴァは首を振り、ロシア人のフョートカと共に去って行ってしまい……絶望。
ここのシーン悲しくて綺麗で好きです(フィドラーずっといるし)。

テヴィエが酒場を出た後に酔っぱらいの癖にフィドラーと一緒に踊って気分が悪くなってしまったりの楽しいシーンもあれば、旅立つ次女ホーデルとの別れのシーンのような悲しいシーンもあり。
最後にアナテフカ村をユダヤ人は全員ロシア人に追われて出て行かなくてはならなくなるのですが、荷車を引いてテヴィエ達が進み出すと、荷車の影にいて客席からは隠れていたフィドラーが取り残されます。
テヴィエが立ち止まり、フィドラーに顎をしゃくってついてくるように示すと、こくりとは頷いて後ろ手にヴァイオリンを持ち、身をかがめてついて行くのです。そしてやはり、フィドラーはテヴィエと共に行き、ヴァイオリンを弾いてテヴィエとユダヤ人の心を奏でつづけるのでしょう。
ここのフィドラーが可愛くて好きなんですよねー。

千秋楽は「陽は昇りまた沈む」(ツァイテルの結婚式で歌われる歌)を皆で歌いました。
いつもは歌もない駒田さんの歌っている姿が見られて嬉しかったー(^^)
この舞台、歌はあるけれどダンスは少なめですね。
でも良い舞台です。
今後もまだまだ続いてゆくでしょう。

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