2001.8.7〜12  撃墜王ビリー

駒田はじめさんの一人芝居を観てきました。
ラパン・エ・アロという小さな音楽ホールが会場です。
一人で17もの役をこなします。
話は、第一時世界大戦中、イギリスの植民地であったカナダの植民地派遣軍として戦争に参加したビリー・ビショップの伝記というか回想のような感じなのですが、最初、騎兵隊にいたビリーがある日飛行機を見てパイロットに憧れ、それからイギリス空軍に移って添乗偵察員を経てパイロットになり、射撃の腕が非常に良く撃墜王にまでなる間に彼が出会った人々を全て駒田さん一人で演じています。
戦争の話なのですが、それそのものがテーマというわけではなく、一人の男の人生、それを通して彼が感じた事を表現していっているものと思います。
舞台上にはピアニストのながいわさんと駒田さんの二人きり。
他には一切出演しません。
小さい空間ということもあり、マイク無しの生声。
何曲か歌もあり、印象的で良い歌ばかりです。
とにかく、すごい舞台でした。
初日から千秋楽まで6日間、毎日会場に通いました。
これは私にとって初めての経験。
同じ芝居を毎日連続で観るのは4日が今までの最高記録だったので。
くるりと向きを変える、それともまばたきたった一回でがらりと別人に変わり表情から声、身長から体型まで(^^;)変わる、その鮮やかさ。
「役者・駒田はじめ」の真髄を見たかのようでした。
ピアノがある他はほとんど何もないシンプルな舞台で、たまに小道具や椅子が使われるくらいのものです。
時折観客を巻き込みながらの、休憩を挟んだ2時間がなんと短く感じられる事でしょう。
一瞬たりとも目を離せない二時間。
初日、一人芝居自体観るのが初めてだったこともあり、かなり緊張いたしましたが、想像をはるかに超えた舞台を見せていただきました。

駒田さんがビリー・ビショップの他に演じたのはビリーがパイロットになるのに手を貸してくれたレディ・セント・ヘリアーおばあちゃん、その執事のセドリック、ヒギンズ連隊長、お医者さん、撃墜王アルバート・ボール、ラブリー・エレーヌ……etc.
ビリーの上級生は新兵のビリーをいびってクモを食べさせるわ、空軍に移る時に面接をしたサー・ヒューは騎兵隊の士官であるビリーに「馬には乗れるのか」と思いつきの質問をするわ、色々な人が登場します。
エレーヌはビリーが一夜を共に過ごした女性なのですが、これまた衣装替えをする訳でもなく、ビリーの軍服に真っ白な羽根ひとつ巻いただけで見事に変わる。
戸口での二人(一人)のラブシーンは色っぽいですうぅ!
その後ビリーは「同じようにいい思いをした」仲間達に会いに行き、飛行場に戻るトラックはとっくになくなってしまっているのでその仲間達と腕を組み、黙ったまま1瓶のブランデーを回し飲みしながら帰って行く……というシーンがあるのですが、なんだかいつもこのシーンで羨ましくなるのです、私。
言葉のいらない感じがとても良く出ていて、そういう関係が羨ましいのかもしれません。
いいなあ……。
アルバート・ボールはビリーと向き合って椅子に座って話をしているのですが、舞台上にいるのは勿論駒田さん一人であり、椅子はひとつ。
ボールは椅子にまっすぐに座っていて、ビリーは椅子に横向きに座っている。
その位置関係がちょっと面白かったのです。
その舞台中央にある椅子にアルバート・ボールが座っている時は、ビリーは手前左にいるのですが、そこにビリーが座っている時は手前右側にボールがいることになって、舞台上に三角形ができるんですね。
実際見てない方はこの説明では判らないかもしれませんが、なんか面白いなーと思いまして書いてみました。
ボールの死後にビリーはボールの撃墜記録を抜いて撃墜王になるわけです。

植民地出身の人間がトップではまずい、というわけでビリーは国王から3つの勲章を貰ってカナダに帰るのですが、その直前に攻撃した敵機が空中分解して生きたままの人間が落ちてゆくのを見てビリーは愕然として、もう飛ばなくてもいいということに安堵します。
しかし20年後、第二時世界大戦の勃発。
再び戦争が始まり、ビリーは若い兵士達を激励するのですが、そのあとにはからずも口にした言葉……。
「また戦争が始まるなんて思ってもみなかった…。一体、何の為に戦ってきたんだ!」
「それでも俺達にはどうすることも出来ない……。そうだろう?」

戦争を扱った舞台としては今井雅之さんの「THE WINDS OF GOD」や、「月光の夏」などが有名ですが(「ひめゆり」は観たことないので、置いといて)、この「ビリー」は「戦争」をテーマにしているわけではないと思うのですね。
多分そうしたらまた全く違う作品になっていたでしょうし。
それでもビリーの舞台が戦争中ということで、死んで行った仲間達、そして戦っている相手もまた同じ人間なのだということ、皆が一生懸命生きていたこと……そういうことを教えてくれます。
アルバート・ボールの死後に歌った歌が、とても心に沁みます。
「友よ若いまま死ぬなよ」…「生きているのは恥じゃない」…「僕らは子供だったね」などの言葉の数々。
これは第一次世界大戦後のビリーの歌なんだなあ、と思います。
最後の方で第二時世界大戦で若い兵士に呼びかける前に歌った歌、これは最初にも流れる、一番覚えやすい曲なのですが「何故だか戦争だなんて思えなかった」という歌詞と共に、スクリーンに年端も行かないような少年兵の顔が映って、「戦争なんて!」という思いがわきあがります。
その後一番最後に歌う歌、これは一幕の最後と同じ歌なのですが、歌の途中から目の前でどんどん駒田さんの目が涙で充血していくのがすごく良くわかるんです。

私にとってとても大切で特別な舞台になりました。
日本では初演ということもありますし、これは是非駒田さんのものとして続けて欲しいと願っています。
千秋楽で駒田さんご自身も一生続けていく事を財産としていきたい作品に出会えたとおっしゃっていましたし、再演、再々演とやって欲しいですね。
小さな会場だったので頭上1メートルもない高さに照明があって、駒田さんずっとすごい汗を流してやっておられたので、次回はもう少し天井の高いところでお願いします…。

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